大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡家庭裁判所小倉支部 昭和61年(少)3501号 決定 1987年1月12日

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

1  非行事実

少年は、両親健在の家庭に育つたものの、昭和61年3月市立○○中学校を卒業した際高校受験に失敗し、以後他への進学、就職もせず無為徒食し、度重なる両親の助言、忠告にも耳を貸さず、近隣の素行不良者、さらには暴走族、暴力団員と交遊し、喫煙、シンナー吸入、バイクの無免許運転、深夜徘徊、無断外泊、不純異性交遊、母校○○中学校に仲間と度々赴いては後輩らに対する金品の強要、暴行等を繰り返し、さらには、昭和61年11月27日昼過頃かねて不良仲間として親交のあつたA子(14歳、○×中学3年生)、B子(14歳、○○中学3年生)らとともに○○中学校に赴き、かねて少年らの行状に畏怖していた同校2年生の女生徒(当時13歳)外1名の者を校外に呼び出し、同人らに対し売春を強要して承諾させ、同女生徒をして暴力団組長を相手に売春をさせたうえ、当初約束させていた売春の紹介料名下に現金4000円を同女生徒から受け取り、さらに売春料残金全額の支払を執拗に要求したため、後難を恐れた女生徒をして登校拒否の巳む無きに至らしめた。

以上のような少年の行為は、保護者の正当な監督に服さず、犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し、自己又は他人の特性を害するものと言うべきであり、このまま少年を放置すれば、その性格、環境に照らして、将来罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をする虞がある。

2  法令の適用

少年法3条1項3号イ、ハ、ニ。

3  保護処分に付する理由

本件は虞犯事件としての立件であるが、実質は児童福祉法違反(同法34条1項7号)、売春防止法違反の罪に該当すべきところ、売春の相手方につき被害児童の供述及び名刺以外に証拠上特定(いわゆる面割り)ができないため、このように虞犯事件として送致されてきたものである。前記のとおり、少年の日頃の放縦な生活態度には目に余るものがあり、女生徒に売春を強要し金銭を要求した行為は悪質極まりなく、到底わずか14、5歳の少女が思いつく犯行とは思われず、前記のとおり暴走族、暴力団員との交遊が影響していることは否定できない。少年は、未だ15歳、本件は初犯であり、初めての鑑別所入所ということで事の重大さを認識し反省していると認められないではないが、非行の根は深く、単なる偶発的犯行とは思われず(被害者が泣き寝入りしておれば、暴力団員との関わりから他にも被害者が出ていたものと、特に少年保護事件記録から予想される。)、少年の更生、健全な育成保護を図るためには、もはや在宅保護では困難であると判断する。確かに、少年は、鑑別技官及び担当調査官に対し反省の気持を訴え、鑑別所内ではそれを態度で示しているようであるが、これまでの少年の常軌を逸した行動を放置していた事実に鑑みると、保護者の保護能力には多くを期待することはできず、むしろ保護者としてもこれまで少年に色々手を尽して助言、忠告を行つてきたが、結局、少年がこれを聞き入れず、両親の手に負えなかつたというのが真相と推認される。本件の前後を通じて少年の周囲の客観的環境、交遊関係(本件共犯者以外にも少年が交際している素行不良者は近辺に数人いる。)等には殆んど変化はないのである。それにもかかわらず、少年の主観的反省心(それは今は真実かもしれないが)だけを頼りに、このような悪質な行状から少年が保護観察による指導監督のもとに自力で更生できるかについては甚だ疑問である。少年にとつて現在最も必要なことは、これまで受けることのできなかつた基本的な躾と長期怠学によつて得られなかつた義務教育を施し、正しい規範意識を涵養し、正常な生活習慣を身につけさせることであり、そのためには、少年を施設に収容して矯正教育を行うのが相当と認められる。

よつて、少年を初等少年院に送致することとし、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用し、主文のとおり決定する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例